ツグツグ.comにおいては、「先人から受け継がれてきた高度な技術を用いたものづくり」を伝統工芸としていますが、伝統工芸という言葉に含まれる範囲に正確な線引きはなく、それを工芸品と捉えるか、日用雑貨と捉えるかといった価値観の違いでその範疇は広くも狭くもなり得る業界です。ここでは、分かり易くある程度範囲を絞って説明するために、「伝統的工芸品」という決まりによってきちんと線引きされている業界について見ていきたいと思います。



そもそも伝統工芸品って何?
伝統工芸品に明確な定義はありませんが、一般的にはそれぞれの地域から産出される素材を元に、伝統的な技術や技法を用いて作られる工芸品のことです。染織・陶芸・漆芸・木竹工・金工・仏壇・仏具・和紙、文具・石工品・人形など全国に1000種類以上の伝統工芸品があります。 伝統工芸品という大枠の中には『伝統的工芸品』・『美術工芸品』・『民藝』といった3つのジャンルが存在しています。
伝統的工芸品
産業としての工芸品(ある程度の規模があり量産が可能といった法律に典拠したもの)消費することを前提としている。
美術工芸品
作家の自己表現を顕在化したものが中心。量産することを目的としておらず、「希少」という点に価値を見出すこともある。
民藝
「民衆的工藝」の略で、それまで美術的価値がないとされていた民衆生活の中から生まれた工芸品『民藝』の中に美術的な価値があるとし、1926(大正15)年に柳宗悦が白樺派のメンバーと共に提唱した民藝運動によって広められました。 柳宗悦によって日本民藝館に集められたコレクションを民藝の概念としています。用の美を追求し、生活美学に重きを置いたものが中心です。
これらの3つは重なる部分もあり、職人・作家の両輪で活動する人も多くいます。


『伝統””工芸品』?
「伝統工芸品」と「伝統的工芸品」。この2つの言葉、実は含まれる意味合いに違いがあります。伝統”的”工芸品は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(以下「伝産法」という)」に基づいて規定されています。  伝産法が作られた目的や背景、指定要件を理解することでその違いをみていきましょう。
伝産法ってどんなもの?
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」の第1条にコンセプトとなる部分が明示されています。
第1条
この法律は、一定の地域で主として伝統的な技術又は技術等を用いて製造される伝統的工芸品が、民衆の生活の中で育まれて受け継がれてきたこと及び将来もそれが存在し続ける基盤があることに鑑み、このような伝統的工芸品の産業の振興を図り、もって国民の生活に豊かさと潤いを与えるとともに地域経済の発展に寄与し、国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
なぜ伝産法が作られたの?
1964年の東京オリンピック前後、高度経済成長によって量産品による使い捨て文化が蔓延しました。そして、人口も地方から東京へ一極集中するようになり、それによって産地ごとにあったものづくりの産地基盤が危うくなり人材不足が起こるといったことを背景に伝産法は作られました。
法律制定の背景
・大量生産・大量消費の使い捨ての生活を反省
ー 手作りに味わいを見出す本物志向の芽生え
・産地基盤が危機に瀕していた
ー 洋風化など、ライフスタイルの変化にともなう需要の減少、自然環境の変化、従事者の減少に対する危機感
・地場産業確保育成
ー もの作り産業を育成し、地域産業・経済の発展と雇用の創出をめざす』
伝産法が適用される基準ってあるの?
伝産法は、各産地が自ら手を上げて振興のための計画書を作成し、審議会に提出することによって答申され、要件を満たし経済産業大臣の指定を受けることで適用されて、指定を受けたものを『伝統的工芸品』と言います。 経済産業大臣の指定を受けるためには以下の要件を全て満たしている必要があります。
伝産法の指定要件
日本人の生活に密着し、主として日常生活で使用されるものであること
コレクションすることに価値を見出すものではなく、季節行事の時や普段の暮らしの中で使われるもの。
主要工程が手作業中心であること
あくまで「主要な工程」なので、時代に合った道具を使いつつ、その工芸品独特な個性が出る部分において手作業で行っているという捉え方。
100年以上続く伝統的な技術・技法を持っていること
主に②の手作業の工程を指します。
100年以上使われてきた伝統的な材料を使用していること
これは自然素材が圧倒的に多く、土地によっての個性が現れる部分でもあります。
産地がある程度の規模を持っていること(事業所数:10社以上 従事者数:30人以上)
「産業として成り立つために量産ができる必要がある。」
「次の世代に継承するための規模が必要。」
こういった意味を込めて事業者数と従事者数の基準が設けられています。
ちなみに、産地にはどこからどこまでという範囲もきちんと決められています。
※伝統的工芸品産業の振興に関する法律(昭和49年法律第57号)に基づく
これらの要件を満たし、指定されている伝統的工芸品は現在、日本全国に222品目あります。 指定を受けると、国の力を借りて振興策を実施していくことになります。
(例:後継者育成のための教育事業、原材料確保のための研究事業、需要開拓のための広報事業 等)


業界の現状は?
産地により現状は様々ですが、全体としては1980年(昭和55年)頃をピークに生産額・従事者数ともに減少の流れに歯止めが掛からない状況となっています。このデータからもわかるように、大量生産品の台頭による煽りを受け、厳しい現状と言えます。
後継者不足・売上減少といった悲観的な面がどうしても目立ってしまいますが、産地ごとに時代のニーズを研究し、人気が出て生産に追われている産地もあります。 例えば、海外向けにカラフルなバリエーション展開を行っていた南部鉄器では、機能性の高さとファッショナブルなビジュアルで人気を博し、国内でもキッチンアイテムの新定番となりつつあります。


業界の抱える課題は?
以下にあげる課題については、経済産業省を始め都道府県及び産地ごとにも支援策を行っています。職人を志すにあたっては、個人としても課題点を理解し、解決していこうと行動を起こすことが必要となってくるでしょう。
「作り手」そして「使い手」の後継者育成
※ここでは「作り手」=職人、「使い手」=消費者とします。
通常、作り手の10倍の使い手がいないと、産業としては成り立たないと言われていますが、伝統工芸においては、まだまだ使い手が足りていないのが現状です。使い手である消費者にも知識、技術が必要となってくる工芸品もあり、使い手に正しい知識や技術を伝え、新しい需要を創出していくことが必要となってきます。
例:漆は手入れが難しそう。。 着物を自分じゃ着られない。。
また、生活環境の変化(年中行事の希薄化・少子化社会)に対応した、新しいライフスタイルの提案も行っていく必要があります。
繫ぎ手の弱体化
ここ数年、「作り手」「使い手」の他に「繫ぎ手」というワードが重要視されるようになってきました。
これまで作り手と使い手の間を結ぶ繫ぎ手としての役割の多くを担ってきた問屋さんの力が脆弱になっており、職人さんの作った商品を買取ることができなくなっている現状があります。ですので、問屋さんは委託という形で職人さんから商品を預かり、売れ残った商品は職人さんの元に送り返されるといったことが現在起こっています。そういった場合、職人さんにとっては稼ぎにならず、リスクと負担が大きくなってしまっているのです。
しかし、こういった繫ぎ手との構造的問題が未だに残っており、その存在をなしにして既存の市場で販売を行っていくことは難しい場合も多いです。そのため、これまでになかった若者向けのアパレルなどにも新しい販路を開拓する動きが活発になってきています。
後継者問題
需要がきちんとあれば、後継者は集まると言われています。例えば、師匠が弟子をとる場合、師匠としては引き受けた責任があるので、弟子が自立できるよう尽力してくれます。そして将来、暖簾分けするときに、お客もつけて独立させるというのが、これまでの徒弟制度でした。しかし、現在は師匠のところだけで手一杯といった状況が続いており、そのような状況ではなかなか責任を持って弟子を預かれないといったことになっています。
現状・課題を受け、今後必要なことは?
経営者としての職人の育成
古くからの流れとして、これまで職人さんは、材料は宛てがい扶持であったり、商品開発・市場調査などは問屋さんなどの流通側に任せっきりになっていた部分が多かったのですが、その流通側の弱体化によりそれではやっていけない状況となっています。
こういった現状を受け、今後は自らホームページで発信することで市場を開拓したり、材料を仕入れるためのルートを開拓したりといった様々なノウハウを身につけ、自立する必要性が出てきました。
「DENSAN ACADEMY」
伝統工芸の未来を担う職人向けの人材育成講座が経済産業省の主催で行われています。どのようにして市場開発を行うか、WEBによる情報発信、需要創出、海外進出など職人さんが自らブランディングを行うための各テーマごとにプロフェッショナルな専門家を呼んで教育支援を行っています。
ここで伝統工芸品業界に興味を持っていただけたのなら、是非ご自身の目で職人さんの作ったものを見て、直接お話しを聞くことをおすすめします。全国でワークショップなどの体験イベントが行われていたり、ショールームを構えているところもあります。想像の世界から一歩踏み出すことで、伝統工芸品、ひいては職人さんもぐっと身近な存在に感じられるでしょう。